第18回新しい資本主義実現会議で、「三位一体の労働市場改革の指針」が公表されました。

その内容の中で特に注視しておきたいものが、下記7点です。

①雇用調整助成金の見直し(「4.リ・スキリングによる能力向上支援」の(4))

・在職者によるリ・スキリングを強化するため、休業よりも教育訓練による雇用調整を選択しやすくするよう、助成率等の見直しを行う。教育訓練・休業による雇用調整の場合、給付期間は1年間で 100 日まで、3年間で 150 日までであるが、例えば 30 日を超えるような雇用調整となる場合には、教育訓練を求めることを原則とし、例外的にその日以降に休業によって雇用調整を行う場合は助成率を引き下げるなどの見直しを検討する。

②個々の企業の実態に応じた職務給の導入(「5.個々の企業の実態に応じた職務給の導入」)

今後年内に、職務給(ジョブ型人事)の日本企業の人材確保の上での目的、ジョブの整理・括り方、これらに基づく人材の配置・育成・評価方法、ポスティング制度、リ・スキリングの方法、従業員のパフォーマンス改善計画(PIP)、賃金制度、労働条件変更と現行法制・判例との関係、休暇制度などについて、事例を整理し、個々の企業が制度の導入を行うために参考となるよう、多様なモデルを示す。この際、個々の企業の実態は異なるので、企業の実態に合った改革が行えるよう、自由度を持ったものとする。中小・小規模企業等の導入事例も紹介する。
また、ジョブ型人事(職務給)の導入を行う場合においても、順次導入、あるいは、その適用に当たっても、スキルだけでなく個々人のパフォーマンスや適格性を勘案することも、あり得ることを併せて示す。

③失業給付制度の見直し(「6.成長分野への労働移動の円滑化」の(1))

・自らの選択による労働移動の円滑化という観点から失業給付制度を見ると、自己都合で離職する場合は、求職申込後2か月ないし3か月は失業給付を受給できないと、会社都合で離職する場合と異なる要件となっている。失業給付の申請時点から遡って例えば1年以内にリ・スキリングに取り組んでいた場合などについて会社都合の場合と同じ扱いとするなど、自己都合の場合の要件を緩和する方向で具体的設計を行う。

④退職所得課税制度等の見直し(同上の(2))

・退職所得課税については、勤続 20 年を境に、勤続1年あたりの控除額が 40 万円から 70 万円に増額されるところ、これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある。制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う。

・個人が掛金を拠出・運用し、転職時に年金資産を持ち運びできる iDeCo(個人型確定拠出年金)について、拠出限度額の引上げ及び受給開始年齢の上限の引上げについて、2024 年の公的年金の財政検証に併せて結論を得る。

⑤自己都合退職に対する障壁の除去(同上の(3))

・民間企業の例でも、一部の企業の自己都合退職の場合の退職金の減額、勤続年数・年齢が一定基準以下であれば退職金を不支給、といった労働慣行の見直しが必要になりうる。

・その背景の一つに、厚生労働省が定める「モデル就業規則」において、退職金の勤続年数による制限、自己都合退職者に対する会社都合退職者と異なる取り扱いが例示されていることが影響しているとの指摘があることから、このモデル就業規則を改正する。

⑥同一労働・同一賃金制の施行の徹底(「7.多様性の尊重と格差の是正」の(3))

・同一企業内の正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を禁止する同一労働・同一賃金制の施行後も、正規雇用労働者・非正規雇用労働者間には、時給ベースで 600円程度の賃金格差が存在する。

・同一労働・同一賃金制の施行は全国 47 か所の都道府県労働局が実施している。全国に 321署ある労働基準監督署には指導・助言の権限がない。同一労働・同一賃金の施行強化を図るため、昨年 12 月から、労働基準監督署でも調査の試行を行い、問題企業について、労働局に報告させることとした。

・600 円程度の賃金格差が非合理的であると結論はできないが、本年3月から本格実施された労働基準監督署による上記調査の賃金格差是正への効果を見て、年内に順次フォローアップし、その後の進め方を検討する。この際、必要に応じ、関係機関の体制の強化を検討する。

同一労働・同一賃金制は、現在のガイドラインでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の比較で、非正規雇用労働者の待遇改善を行うものとなっているが、職務限定社員、勤務地限定社員、時間限定社員にも考え方を広げていくことで再検討を行う。なお、同一労働・同一賃金制は、外国人を含めて適用されることに改めて留意する。

⑦女性活躍推進法の開示義務化のフォローアップ(同上の(4))

男女の賃金差異について、女性活躍推進法の開示義務化(労働者 301 人以上の事業主を対象に昨年7月施行)の対象拡大(労働者 101 人から 300 人までの事業主)の可否についての方向性を得るため、開示義務化の施行後の状況をフォローアップする。


今後の労働政策の方向性に大きく影響してくる指針と考えますので、その他の内容も含め、下記URLよりご参照頂ければと思います。


(資料)三位一体の労働市場改革の指針

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/roudousijou.pdf

(出所)新しい資本主義実現会議(第18回)ー内閣官房

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai18/gijisidai.html