淀川労務協会の木村(朋)です。

数年前からちらほらと話題になっていましたが、厚生年金の適用拡大を議論するために政府の社会保障審議会が本格的に始まったようです。
本日の日経新聞の記事によると、日本の雇用者における非正規労働者の割合は3分の1を占め、人数は約1,800万人(2010年)とのことです。
ちなみに、新聞紙上では厚生年金をクローズアップしていますが、もし適用拡大になる場合は健康保険の適用もセットになると予想されます。(厚生年金と健康保険をあわせて”社会保険”と呼ばれています。)
現在の厚生年金の適用基準は「1日または1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が通常の労働者の所定労働時間又は所定労働日数のおおむね4分の3以上であること」とされており、いわゆる”4分の3要件”と言われています。
ようは、自社の正社員並みに働く人は、正社員・パートなどの呼称に関わらず、厚生年金(健康保険も)に加入することになります。
具体例で言えば、正社員が週休2日で1日8時間勤務(1週間40時間勤務)の企業の場合、おおむね1週30時間以上の勤務条件であれば加入が必要ということになります。
実務的には、この『おおむね』という曖昧な基準が加入要否を判断する上でややこしくなることがありますが、今回の議論では分かりやすく”1週20時間以上”を基準とすることがひとつの方向性のようです。
雇用保険にも1週20時間以上という適用基準がありますので、契約期間の要件等の細かい点が異なるものの、厚生年金・健康保険・雇用保険の基準がほぼ同じになることになります。
予想されているとおりの適用基準になる場合、保険料を折半する企業側、とりわけ今まで適用対象外だったパート等を多く活用している飲食業や小売業等の企業にとっては大きなインパクトです。
これまでどおり適用対象外にしたいのであれば、パート各人の勤務時間を短くしてもらうという労働条件の変更が必要になる上、短時間化したことによる労働力の穴埋めをするために新しいパート等を採用する必要が出てきます。
そうなると、採用コスト、教育コスト、管理コストがかかる上に、労働者が増えることで人事労務管理上も煩雑になると思われます。
たとえ企業側のコストが増加したとしても、厚生年金に加入することによって今まで以上にやる気を出して仕事に励み、会社業績や生産性の向上に寄与するなら、長期的に見るとよい面もあると思いますが、普通に考えるとやる気を出す要因にはならないと思います。
新たに加入する方たちにとっては、手取り収入が減少することを敬遠したり、逆に将来の年金が増えることを歓迎する方もおられるなど、個人の価値観もあるため一概に論じることはできませんが、年末になると税扶養の範囲内に収まるように勤務シフトを調整する方を多く見受けることからも、一般論から言えば、労働者側からしてもあまり歓迎されない改正になるのではないでしょうか?
何にせよ、財源確保のみを前提としたものでなく、企業側・労働者側の本音と実情を十分に汲み取った議論を進めてほしいものです。