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2012.4.17                       Since 2011

~ 転ばぬ先の労務管理メルマガ ~

淀川労務協会  “実録”  労務 虎の巻  臨時特別号①

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――――目次―――――――――――――――――――――――――――

【ケースNo.23】 [既往歴の調査] てんかん既往歴の調査

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【ケースNo.23】

先日、京都・祇園で自動車の暴走による業務中の死亡事故が発生しましたが、事故原因
の可能性の1つとして運転者が罹患していた「てんかん」が挙げられています。
当社でも従業員に社用車を運転させる事がありますが、場合によっては使用者責任を問
われる事もあるそうですし、何より歩行者や従業員の身の安全が心配です。
これを機に、新規採用者や既存の社員に対して既往歴の確認を行いたいのですが問題が
あるでしょうか? もしくは、どのような形で確認すれば問題無いでしょうか?

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まず、労働安全衛生法上の義務である雇入れ時の健康診断(同法43条)や定期健康診断
(同法44条)の受診項目には「既往歴の調査」がありますが、この項目については医師
がどの程度まで問診を行う義務があるか、もしくは労働者がどの程度まで医師に自己申告
しなければならないか、といった具体的基準や指針は定められておらず、「(一般的に求
められる)労働能力に支障のある病気に罹患した事があるか」という観点から、いわば形
式的に問診が行われているのが実情のようです。

 
また安全衛生法違反は刑事責任を問うものですので民事上の責任を免れることはできず、
「健康診断による申告がなかった」、もしくは「既往歴の確認が適切に行われていなかった」
という事をもって使用者責任を免れると考えるのは危険です。

 
今回の事故をもとに今後行政から既往歴確認に関する指針等が設けられる可能性はあります
が、現状では今回ような事故における使用者責任を回避・軽減するためにはご相談のような
調査等が必要となるものと考えられます。

 
従業員に対する調査については、1)調査の自由 と 2)プライバシー保護 の両面から
考えなければなりません。

 
まず調査の自由ですが、最高裁は「(使用者は)労働者を雇用するにあたり、いかなる者を
雇入れるか、いかなる条件でこれを行うかについて、・・・・原則として自由に決定するこ
とができる(三菱樹脂事件 S48.12.12)」と判示しており、これに基づき採否の判断資
料を得るための労働者の労務遂行能力や適性について、調査を行う自由も認められると考え
られます。

 
ただし、この判示は新規採用に関するものであり、既存社員については既に日常の業務の履
行により労働能力の保有が証明されている訳ですから同レベルでの調査を行う事は困難です
し、問題が発覚したからといってただちに労務の提供を拒否することはできませんが、今回
のてんかんのように使用者が把握困難な特定の既往歴について、社用車を利用する者に限定
し、労働者の安全に配慮する事を目的として定期的に調査を行うことには一定の合理性があ
るものと考えられます。

 
次に、プライバシーの保護の観点からみると、調査事項や調査方法によっては応募者のプラ
イバシーを侵害する可能性もあるので、調査の自由も無制約という訳にはいきません。
近年、プライバシー権が以前にまして重視されており、B型肝炎やHIVウイルスなどの労
働能力と関連性の薄い疾病についての調査に関して否定的な立場をとる裁判例(B型肝炎ウ
イルス感染検査事件 H15.5.28 ・ 警察学校警察病院HIV検査事件 H15.5.28)が目
立っており、調査事項についてはかなり制約されるようになってきました。
また、職業安定法・指針や厚労省の行政指導においても使用者の情報収集については制限が
加えられるようになってきています。

 
以上により、プライバシー保護に配慮した上で新規採用者、在職者問わず既往歴確認を行う事
は可能であると考えます。 その際には以下に注意してください。

 
1)既往歴情報の収集・把握は人事部や直属上長等、その責任がある立場の者のみに限定し、
収集した情報の管理は厳重行うこと

2)情報の収集は業務の目的達成や労働者への安全配慮、不安全行動による第三者への加害責
任回避のために必要な範囲に限定し、これを超えるようなものは収集しないこと

3)調査の結果、問題が発覚したとしても対応を簡単に自己判断せず、専門家に相談すること
(問題の性質によっては性急さは求められます)

 
最後になりましたが、今回のような不幸な事故(原因がてんかんであるとして)を招かないた
めには本人の申告による情報収集だけに頼るのではなく、使用者や上司による従業員の日常観
察が重要と考えます。

 
このような問題が起こる前にはその予兆として「遅刻がちになる」「定期的に休暇を取得する
ようになった」「顔色がよくない」「生産性が下がった」等の「異変」が潜んでいると言われ
ています。
そして、小さな「異変」に気づくためには、「普段の彼、彼女」をよく知っておかなればなり
ません。

 
使用者や上司は、日常の従業員の働きぶりや行動を良く観察し、小さな異変に気付く能力を研鑽
するようにしてください。

 
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☆本件についてのお問い合わせは淀川労務協会コンサルティング業務部門までお願いします。
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