スポットワークの労務管理について

Q.
最近時々耳にする雇用仲介アプリを利用した「スポットワーク」を、自社でも一時的な人手不足への対応に有効な手段として導入検討しています。労務管理の面で準備しておくことや注意するべきポイントを教えてください。

A.
先日、厚生労働省から「スポットワーク」の留意事項等を取りまとめた使用者向け及び労働者向けのリーフレットが公表されました。空いた時間に単発・短時間で仕事ができると利用者が急増している一方、契約成立時期の誤認、賃金未払い、直前キャンセルなど、労務管理上のトラブルが顕在化しています。

2025年には、スポットワークにおける企業側の直前キャンセルを巡り、未払い賃金の支払いを求める訴訟が提起されました。本稿では、その事例を踏まえ、スポットワーク導入時に事業主が留意すべきポイントを解説します。

●スポットワーク導入時の労務管理ポイント

1.契約成立のタイミングを明確にする

労働契約法では、「労働者が事業主に使用されて労働し、事業主がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び事業主が合意することによって労働契約が成立する」とされています。

面接等を経ることがなく先着順で就労が決定するスポットワークにおいては、「別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募した時点で労使双方の合意があったものとして労働契約が成立する」と考えられる旨が2025年7月の厚労省の通達で示されました。企業側が「出勤時点で契約成立」等と誤認してしまうと、キャンセル時に賃金支払い義務が生じる可能性があります。

【対応策】社内規程や運用マニュアルに「契約成立時点=マッチング成立時点」と明記し、関係者に周知しましょう。アプリ事業者との契約内容を確認し、利用規約に沿った運用を徹底する必要があります。

2.キャンセル対応ルールの整備

前述のとおり、マッチング成立(労働契約成立)以降の事業主側からキャンセルや当日早帰り等させることになった場合は、「使用者の責に帰すべき事由となる休業」とみなされ休業手当の支払い義務が発生します。また、事業主自身の故意、過失によって労働者を休業させることになった際は休業手当だけでは足りず賃金を全額支払う必要があります。(民法536条第2項)

【対応策】やむを得ない事情によるキャンセル時は、休業手当の支払いもしくは、その日に約束した賃金の全額の支払いを検討してください。キャンセル時の社内承認フローを整備し、記録を残しておきましょう。

3.労働条件通知書の交付

スポットワークであっても、労働条件通知書の交付義務は免れません。求人票と実際の業務内容が異なる場合、トラブルの原因になります。

【対応策】労働条件通知書の交付はスポットワーク仲介事業者が代行してくれる場合もありますが、きちんと交付されているか、その内容は適切か確認しましょう。

4.賃金支払いの表示と実態の整合性

アプリ上では「即日払い」と記載しながら、実際には数日後の振込となるケースがあり、労働者からの苦情が増加しているようです。

【対応策】利用するアプリによっては賃金の即日(または翌日)支払いサービスを設けているものがありますが、このサービスは労働者とスポットワーク仲介事業者との約束です。事業主からの賃金支払いは労働条件通知書に記載された所定支払日までに行えば問題ありません。

5.勤務時間の管理

スポットワークでも始業・終業時刻の管理は必要です。事前準備や始業前集合、待機を命じた時間もすべて労働時間に含まれるため、求人票の曖昧な記載はリスクを高めます。

【対応策】事業主の指示により、就業を命じた業務に必要な準備行為(指定の制服への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(掃除等)を就業先内において行った時間などは労働時間に当たります。求人の際に、これら着替え等の時間も含めて始業・終業時刻を設定しましょう。勤怠記録をきちんと保管しておくことで、万が一トラブルが発生した場合の証拠としても有効です。

●事例紹介:2025年に発生した未払い賃金訴訟(係争中)

概要

2025年10月、スポットワークで働く大学生が、企業側の直前キャンセルは違法な解雇に当たるとして、原告は、飲食店2社を相手に未払い賃金計1万4125円の支払いを求める訴訟を起こしました。この訴訟は、スポットワークにおける契約成立のタイミングと、企業側都合によるキャンセル時の賃金支払い義務が争点となりました。尚、2025年11月時点では係争中であり法的な解決には至っておりません。

争点1:契約成立時期

当時のスポットワークアプリを通じて交付された労働条件通知書には「雇用契約は…出勤時にQRコードなどを読み込むことで締結される」との記載があり、QRコードの読み込みが特段の意思表示の予定にあたるかや記載の有効性が争点になりました。原告は「アプリ上でマッチングが成立した時点で契約が成立している」と主張しています。

争点2:キャンセルによる賃金支払い義務

飲食店側が勤務前日にキャンセルしたことにより、原告は予定していた収入を得られず、生活に支障をきたしたとして未払い賃金の支払いを主張しています。

(解説)別途特段の合意があったとも認められず、労働契約成立後の企業側都合によるキャンセルだと判断された場合には、労働基準法第26条に基づき、休業手当(平均賃金の60%)の、又、企業側の故意・過失での休業と判断された場合には、民法536条第2項に基づき、賃金の支払い義務が生じる可能性があります。この事例は、スポットワークにおける契約成立時期の認識不足が、企業にとって法的リスクとなることを示しています。

●厚生労働省の見解とアプリ事業者の対応例

厚生労働省は2025年7月に通達を発出し、「別途特段の合意がなければ、求人に応募し、企業が承諾した時点で労働契約が成立するのが一般的」との見解を公表しました。

【A社の利用規約変更内容の一部抜粋】
・契約成立時期:求職者が求人への申込みを完了した時点で契約が成立する。
・キャンセル対応:不可抗力や天災、募集条件違反など一定の解約可能事由がない場合は事業者からのキャンセルは原則不可。勤務開始予定時刻の24時間前を過ぎてからキャンセルする場合は、賃金の支払い義務が生じる。

●おわりに

スポットワークは、柔軟な雇用形態として魅力的ですが、通常の雇用契約と同様の法的責任が伴います。事業所様におかれましては、制度設計と運用ルールの整備を徹底し、トラブルの未然防止に努めていただくようお願いいたします。今後の運用において参考にしていただければ幸いです。