業務部の三浦です。

 

顧客から労契法第18条の無期転換申込権の発生を合法的に回避する方法はないのか?

というご相談を受けることがありますのでブログにて私見を含めご説明させて頂きます。

 

【前提】

所謂、「無期転換申込権」は労働契約法(以下、「労契法」とする)第18条により発生する権利です。

労契法はこれまでの裁判例を条文にした法律で、平成20年施行と歴史は浅く、罰則の無い「民法の特別法」という位置付けになります。

そして、個別具体的な事例の最終判断は裁判所が行うのが特徴です。

無期転換申込権は平成25年4月1日施行であり、多くの企業において本年初めて権利行使者が生まれます。

つまり、無期転換申込権に対して如何なる事前対策を講じて回避しようとしたとしても、そこに争いが生じた場合に裁判所以外にその適法/違法を断定することは出来ませんし、またこの新しい法律には判例の蓄積が一切ありませんから、クーリングの成立等、法令で是認されている方法以外に現時点で確実に合法とされる回避策はありません。

 

 

【無期転換申込権を発生させない方法】

 

最初に結論を申し上げますが、無期転換申込権を発生させない方法は、現状では5年を超えることとなる有期労働契約が開始する前に雇用を打ち切る以外にありません。

これが唯一の方法です。

 

ニュース等で自動車会社の多くが無期転換申込権発生前に一度雇用を切り、6箇月後に再度雇用することで無期転換申込権の発生を回避しようとしているのはご存知だと思います。

 

この仕組みを解説します。

 

まず無期転換申込権の問題とは別に、有期労働契約の雇止めについては労契法第19条により雇止め無効となる可能性があります。

 

自動車各社は労契法18条による無期転換申込権の問題の前に、この労契法19条への対策として3年程度勤続した有期契約労働者に対しては1~3箇月程度の空白期間を設けた上で再雇用するという運用実態が以前より行われていたようです。

そこに今回の無期転換申込権が法制化されたが故、この空白期間を長期化することでクーリングを成立させ無期転換申込権の発生についても回避しようとしている訳です。

他社への人材流出リスクがあったとしても一旦雇用を打ち切る選択が出来るのは、自動車大手のように採用に優位性がある「強者の選択」と言えます。

 

ただ、この自動車各社の対応も裁判によって無効とされるリスクは内包されています。

 

その他、私立高校の雇止め、樟蔭学園や日仏学園の無期転換回避の問題も基本的にはこれと同様の雇止め対応です。

 

【無期転換申込権に関する私見】

 

政府が無期転換申込権を法制化した目的は、「雇用の安定」と「非正規労働者の処遇改善」にあると思われます。

非正規労働者に一律にという話でも、正社員に引き上げなさいという話でもなく、5年も継続して就労している労働者なのだから雇用の維持については相応の責任を会社は負うべきだということですからこれは理解出来る話です。

 

そもそも派遣労働者を含む非正規労働者は、解雇が極めて難しい日本の雇用慣行において需要や収益の変化に対応した総額人件費の調整をその増減により行う(これにより、貸倒などによる企業倒産でおこる全社員の失業や利害関係者への被害を防ぐ)ことを目的とした属性であるはずです。

それがいつのまにか実態として常用雇用化し、一部では正社員よりも仕事が出来るほど戦力化してしまっていることが問題の本質なのでしょう。

 

大事なのは無期転換を推進することでもなくて、原点に回帰し、正規雇用は正規雇用、非正規雇用は非正規雇用と各々の役割に応じた役割と労働条件の棲み分けを行うこと。

その中間的な役割に期待するのであれば、中間属性(準社員等)を準備すれば良いように思います。これは同一労働同一賃金の問題にも通じる話です。

 

その判断には5年も必要はなくておそらく3年程度あれば可能でしょうし、無期転換申込権の制度を設けた以上は雇入れ後3年程度で行われる「無期化(正社員化、準社員化)」、「雇止め」の仕分けによって行われることとなった「雇止め」の有効性については労契法第19条の適用を寛容に判断すべきではないかと思います。

 

 

 

 

 

≪参考≫ 労働契約法第19条(有期労働契約の更新等)

有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって,使用者が当該申込みを拒絶することが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって,その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが,期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。